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どんなゲーム?
ミニマルなドットで表現されたアクションゲーム。赤主体の色味で描かれたビジュアルが印象的です。
操作は左右の移動、ジャンプ、遠距離攻撃とシンプル。
アクションゲームのいわゆる死にゲーと呼ばれるような、死んで覚える系のゲームですが(例えば「デモンズソウル」などのソウルシリーズも死にゲーと言えるでしょう)、画面の遷移ごとにリトライ出来るのでストレスなく遊べます。
プラットフォーム
フラッシュを使ったブラウザ版、iOS版、Android版があります。
価格は無料!プレイ時間も15-30分くらいのコンパクトなボリュームとなっています。
iOS版に関しては、小さいサイズのバーチャルボタンなので「押したはずが押せてなかった!」といったストレスが少々あるかもしれません。ただ、そこまで繊細なタイミングや操作を要求されるわけではないので大丈夫。
なにしろ無料なのでとりあえずプレイしてみてください。
懐かしきドットのミニマルな美
削ぎ落としても伝わる世界観
ゲームは左端にあるお墓の前で一人たたずむ男(操作キャラ)の姿から始まります。
赤い色味で統一された色彩、降りしきる雨とリアル調の雨音。誰か大事な人のお墓なのでしょうか、沈鬱な雰囲気です。
START NEW GAMEをタップするとそのままシームレスにゲームが始まります。(ちなみに、ここではSTART NEW GAMEの文字部分をちゃんと直接タップしないと始まらないので注意。)
上に貼った画像のように、ゲームが始まるとまずは操作ボタンの説明。移動、ジャンプを覚えます。音楽は無く、雨音の中に草を踏む足音だけが響きます。
そして、目の前には大きな崖が。
切り立った崖を飛び降り着地するのと同時に重々しいBGMが流れてきます。
下には敵キャラであるヘビの姿。
ヘビをかわした先の落ちてる銃を拾い、攻撃ボタンをアンロックして先に進んでいきます。
ここまでのグラフィックを見てもかなりシンプルですが、統一された赤い色彩構成、雨の音と響く足音、崖を大ジャンプし着地してからの重厚なBGM…といった演出を含めて見てみると、しっかりと世界観が表現されていて、このミニマルな表現に舌をまきます。
アクションの土台はしっかり
この辺りから敵キャラの種類や、落ちてくるつらら状のオブジェクトなど主人公の行く手をはばむ要素が増えていきます。
さらに洞窟は続きます。主人公は何度も死にながら一心不乱に奥へ奥へ……。
草むら、洞窟、暗闇、海、岩場…シンプルながらも様々な地形要素、敵キャラとアクションのバリエーションがあって飽きさせません。
アクションゲームとしてのバリエーションはちゃんとあって、懐かしさを感じさせるようなアクションの定番もおさえています。だからミニマルなビジュアル表現でも単調な印象は無いです。
秀逸な演出・音の使い方
先ほどの洞窟の部分では、BGMの裏に洞窟内の風切り音のような空間を感じさせる音が仕込まれています。それによって、シンプルながら重たい空気感を演出しています。
このシーンも画はシンプルですが、海のさざ波の音が付けられています。プレイしながらこの場面に出くわすと、グラフィックと音から少し雰囲気が変わった印象を受けます。実際ここの前と後ではアクション要素が変わっていて、ステージの区切りを知らせる役割も担っているようです。
このシーンは中ボスの少し前の風景です。まるで地獄のような景観に難所を予感させます。
先述の崖のジャンプや洞窟内大ジャンプ、海のような場所など、雰囲気やアクションの傾向が変わる部分の前にはこのように、なにかを暗示するような象徴的なエリアが挟まれます。
タイトル画面の雨音やBGMのつけ方、エリアごとの雰囲気の切り替えなど、短いゲームながらも空気感を作るのが上手いなと思わされます。
このように、必要最小限のグラフィック表現ではありますが丁寧につくられていて、ステージ構成や音作りと合わせてディープな世界観を実現している作品です。
難所はある程度限られているので、私がちょっと手こずったところとそのパートのクリアのコツを記そうと思います。
ネタバレしていますのでご注意ください。
以下に紹介する3つは全て中ボス後です。
まずはここ。前後からコウモリがおそらく無限沸きで迫ってきます。消える足場のタイミングを待たなくちゃいけないのでギリギリで焦らされます。
ここの私なりのコツは後ろのコウモリは無視することです。前のコウモリを銃で倒しながら足場のタイミングを計って渡る。タイミング的には後ろは無視しても大丈夫でした。
お次はここ。一体でも厄介な敵が二体もいます。
ここは、下から倒しました。足場で敵の攻撃がブロックされるので、それも利用しながら下の敵を倒して上をゆっくり倒すといった感じ。
最後はボス戦。
ボスは頭しか攻撃が効きません。ダメージが入るたびに攻撃が激しくなるので苦戦するかもしれませんが、最初の段階で2回ダメージを入れておけば楽になります。
戦いのスタート地点である崖の上から落ちながら一撃、そのまま足場に着地しジャンプして二撃目。その後は左下の安置で様子見しながら攻撃を入れていけば比較的簡単に倒せると思います。
慣れればアクションが苦手な人もクリアできます。Let’s Play!
振り向いてはならない
冥界の王のような大ボスを倒した後、主人公はさらに奥に進みます。
そして、そこで女性の霊魂に会い、連れ立って来た道を戻ります。
また、彼女との脱出劇には一つのルールが追加されます。
「Don’t Look Back」、振り向いてはならない。振り向けば彼女は目の前で消えてしまうのです。
今まで自由に出来ていた微調整のくせがあって、分かっていても右を向いてしまいます。同じステージでもこのルールがあることによって、自分の無意識の操作が自覚させられて新鮮な気持ちになります。
このシステムは今までの仕掛けやステージを新鮮なものにすると同時に、スピード感の演出にもなっています。冥界の王を倒し魂を連れ出すというスピーディーなシーンをより引き立てています。
オルフェウスの物語のリテリング
この振り向いてはならないというルール、聞き覚えがある人もいるかもしれません。ある神話がモチーフになっています。
作者であるTerry Cavanaghさんのインタビューによれば、これはオルフェウスとエウリュディケの話を参考としてリテリング(retelling)したもの。
オルフェウスの話というのは以下のような話です。
オルペウスの妻エウリュディケーが毒蛇にかまれて死んだとき、オルペウスは妻を取り戻すために冥府に入った。彼の弾く竪琴の哀切な音色の前に、ステュクスの渡し守カローンも、冥界の番犬ケルベロスもおとなしくなり、冥界の人々は魅了され、みな涙を流して聴き入った。ついにオルペウスは冥界の王ハーデースとその妃ペルセポネーの王座の前に立ち、竪琴を奏でてエウリュディケーの返還を求めた。オルペウスの悲しい琴の音に涙を流すペルセポネーに説得され、ハーデースは、「冥界から抜け出すまでの間、決して後ろを振り返ってはならない」という条件を付け、エウリュディケーをオルペウスの後ろに従わせて送った。目の前に光が見え、冥界からあと少しで抜け出すというところで、不安に駆られたオルペウスは後ろを振り向き、妻の姿を見たが、それが最後の別れとなった。
オルペウス – Wikipedia より引用
インタビューでは、「たわいもないシューターのようなものをつくり、左折するとそれらのアクションが新鮮で興味深いモノに変わる」というアイデアを「オルフェウスとエウリュディケのリテリング」と共に思いついたとしています。
The other separate idea was wanting to make a game that set itself up as a silly shooter or something like that, and redeem it with a left turn that put all of your previous actions into a new, far more interesting context. I came up with the idea of retelling the Orpheus and Eurydice story while thinking about possible ways to do this, and even made a couple of attempts to make a game with this idea
Interview with Terry Cavanagh, creator of Don’t Look Back – GameCritics.com
なんというかバチっとハマってるアイデアって感じですね。すごい。
ちなみに、このギリシャ神話のオルフェウスの物語は日本の神話との類似性が指摘されていたりもします。イザナギとイザナミの黄泉比良坂のお話です。
男神・イザナギと一緒に国造りをしていた女神・イザナミが亡くなり、悲しんだイザナギはイザナミに会いに黄泉の国に向かう。イザナミに再会したイザナギが一緒に帰ってほしいと願うと、イザナミは黄泉の国の神々に相談してみるが、けして自分の姿を見ないでほしいと言って去る。なかなか戻ってこないイザナミに痺れを切らしたイザナギは、櫛の歯に火をつけて暗闇を照らし、イザナミの醜く腐った姿を見てしまう。怒ったイザナミは鬼女の黄泉醜女(よもつしこめ。醜女は怪力のある女の意)を使って、逃げるイザナギを追いかけるが、鬼女たちはイザナギが投げる葡萄や筍を食べるのに忙しく役に立たない。イザナミは代わりに雷神と鬼の軍団・黄泉軍を送りこむが、イザナギは黄泉比良坂まで逃げのび、そこにあった桃の木の実を投げて追手を退ける。最後にイザナミ自身が追いかけてきたが、イザナギは千引(ちびき)の岩(動かすのに千人力を必要とするような巨石)を黄泉比良坂に置いて道を塞ぐ。閉ざされたイザナミは怒って、毎日人を1000人殺してやると言い、イザナギは、それなら毎日1500人の子供が生まれるようにしようと返して、黄泉比良坂を後にする。
黄泉比良坂 – Wikipedia より引用
冥界へ訪れ、もう少しのところでタブーを破ってしまいそれが別れとなる、共通点を見出せる話ですね。
巧みなメタ構造とメッセージ
振り返らずに、今まで深く深く潜った道を引き返す二人は、ついに洞窟を抜けだします。
そして始まりの場所へと戻っていく。あのタイトル画面の墓の前です。そこで二人を待ち受けるのは……
そこには”始まった時と同じように“男が墓の前でたたずんでいます。
その姿を見た瞬間、二人とも消え去ってしまいます。
ふたたび現れるタイトル、そして”START NEW GAME“の文字。
いったい何が起こったのでしょうか。洞窟の深部まで潜って、強敵を退け彼女の魂を連れ戻したはずなのに……。
主人公の悲しみとゲームの構造
製作者はインタビューで「最後のシーンでは何が起こったのか」という質問に対してこう答えます。
「ゲーム全体がファンタジーです。プレイヤーが最後に達すると、彼は現実に直面し、ファンタジーは消失する。彼が墓を離れることはないのです。」
The ending is surprisingly weighty and poignant, yet still a bit vague… exactly what happens in the final scene?
The entire game is a fantasy. When the player reaches the end, he is confronted with reality, and the fantasy disappears. He never leaves the grave.
Interview with Terry Cavanagh, creator of Don’t Look Back – GameCritics.com
そう、プレイヤーがやっていたゲーム体験そのものが、墓の前から離れられない彼の中のファンタジー、言いかえれば現実逃避だったのです。
これはゲームプレイという、ゲームとプレイヤーのメタ的な視点も含めた非常に巧みな構成になっています。
私たちの普段やるゲームの中では、道中に幾度となく主人公は死に、その度復活しながらステージを進みます。最後までクリアして物語は大団円をむかえますが、スタッフロールが流れ終われば、今までの冒険は無かったかのようにまた新たにゲームをスタートすることが出来ます。
このような私たちの普段当たり前にプレイしているゲームの物語のループ、プレイヤーとゲームの関係からみた構造も利用した物語なのです。
このアイデアは先ほどの、「たわいもないシューターのようなものをつくり、左折するとそれらのアクションが新鮮で興味深いモノに変わる」と「オルフェウスとエウリュディケのリテリング」というアイデアと共に、このゲームの核となるアイデアだったとインタビューに答えています。
「最初の、そして主なアイデアは、プレイヤーに起こっている何かのメタファーとして、実際のゲームプレイがファンタジーであるゲームを作ることでした。」
The first, and main idea was to make a game where the actual gameplay is a fantasy, as a metaphor for something else that’s happening to the player.
Interview with Terry Cavanagh, creator of Don’t Look Back – GameCritics.com
悲嘆にくれる男は現実逃避のループから抜け出せない、このゲームの構造が示すように。
道中での死は、彼の後悔と自責を表しているように思えます。”死にゲー”として何度も何度も。彼女を連れ戻そうとしても最後には現実に直面し、そしてまたSTART NEW GAME…。
「Don’t Look Back」。このタイトルは先ほどのオルフェウスの物語を引用したゲーム内のルールを示すものでしたが、悲しみを抜け出せず現実逃避を繰り返すこの男に向けられた言葉でもあるのでしょう。
あるいは、私たちプレイヤーがゲームとの関係性のなかで投影する、それぞれに”起こっている何か”にも当てはまるのかもしれません。