ゲーム『風ノ旅ビト』の魅力。体験する詩的な旅、風ノ旅ビトは人生。

こんにちは、ヤツボシ(@yatsuboshi_です。

今回は、私が衝撃を受けたゲームを紹介します。おそらくゲーム史においても名前が残るんじゃないかな、というぐらいの名作ゲーム「journey(邦題:風ノ旅ビト)」です。

BAFTA AwardsGDC Awards、etc…ゲーム界などの数多くの賞を受賞していて、その中にはグラミー賞のVisual Media部門ノミネートも含まれます。

iphoneやipadなどのiOS端末でも遊べますよ。

ちなみに、もしまだプレイしてない人がいたら、記事を読む前にプレイした方が新鮮な感動を味わえるかもしれません。映画と同じくらいの時間でプレイできるので、時間を確保して一気にプレイすることをおすすめします。(記憶を消してもっかい初見プレイしたいなって思わせてくれるゲームなのです!)

どんなゲーム?

Journey™ Launch Trailer – youtube

最近のタイトルではiOSゲーム「sky」で知られる「thatgamecompany」が2012年に配信開始したゲーム「journey(邦題:風ノ旅ビト)」。ジャンルはアドベンチャー。

当初はPlayStation Network専用のダウンロードタイトルで、現在はPC版(EPIC GAMES STORE)、iOS版PS4版PS3版で配信されています。

いわゆる 雰囲気ゲー*雰囲気や世界観が素晴らしいゲームのこと。雰囲気だけのゲームと揶揄する意味も 、そして 一本道ゲー*箱庭ゲームの対義としての一本道。物語とゲーム性が寄り道のない一本道なことから。自由度の低さを揶揄する意味もという言い方もできるかもしれません。

操作は、移動・ジャンプ・アクション(調べる・話しかけるボタン的な使い方で、ポワンと音と球状のエネルギーを発する)だけのシンプルなものです。

そしてゲームの目的もシンプル。シンプルどころか言葉では説明されないのですが、”遠くに見える山の頂を目指す”のが目的なのだろうとプレイヤーは自然に歩き始め旅に出ます。この導入もすごく上手い。

多くを語らない斬新なストーリーテリングと、シンプルながらも美しいグラフィック、絶妙な距離感のオンラインシステム、重厚な音楽、それぞれが高い評価を得ています。

プレイ時間は3時間前後と短いですが、映画を一本見た後のような濃密な体験を味わえます。

ネタバレ注意
以下、ネタバレ注意です。このゲームは、
  • 映画ほどの時間でプレイ出来る
  • 攻略情報無しで誰でもプレイできる
  • 比較的安い
  • 初見の感動がでかい
そんなゲームなので、プレイする予定がある人はぜひ前情報無しで楽しんでから、お読みください。

一応購入ガイドとして、

  • オンライン対戦の競技性や刺激が強いゲームじゃなくてもOK
  • 大ボリュームを求めない
  • 影響力のある有名なタイトルはとりあえずやっておきたい
  • 「ICO」「ワンダと巨像」などのいわゆる雰囲気ゲーが好き

こんな人には是非おすすめしたいです。

Let’s Play!

『風ノ旅ビト』Journey

『風ノ旅ビト』Journey

Annapurna Interactive¥610posted withアプリーチ

グラフィック表現

販売された2012年当初は、ハードの性能が上がってきたのもあってリアルなCG表現に取り組むメーカーが多かったように思います。

しかし、風ノ旅ビトそんな流れに逆らいながら写実的でないCGでも詩的で美しい世界を表現できることを証明したのです。

誇張された”◯◯らしさ”のリアル、フォトリアル以外の道

風ノ旅ビトのアートスタイルは、フォトリアルじゃなくてもリアルを感じることが出来るCG表現です。

例えば、公式トラックなどを見ても分かる砂の表現。

キラキラと光に反射する砂粒が眩しいです。考えてみると砂は実際このような光り方はしないでしょう。誇張が入っている表現ですが、太陽を反射する砂粒のキラキラした”感じ”、頭の中にある”砂らしさ”が喚起される描写だと感じます。

他にも水の中で目を開けてみる景色のボヤボヤした”感じ”、吹雪かれたときの見えづらさ歩きにくさの”感じ”……

とことんリアルを突き詰めたリッチな表現じゃなくても、モノの”らしさ”を捉えて上手く誇張すれば、プレイヤーの頭の中にある記憶と結びついたリアルな感覚を呼び起こすことが出来るのだと思います。

シンプルだけど、エモい。そこがすごい。

美的追求だけではない事情も

フォトリアルではない方向性で制作したのは、小規模なインディ制作という理由もあるようです。

例えば、キャラクターの足先はシンプルな棒状で表現されていますが、これは「足首を作ってしまうと接地の描写が複雑になって制作コストがかかるから」という制作上の制限の中でデザインされた側面も。

このことは4gamerさんの対談記事でも触れています。

 「Journey」のキャラクターの脚は棒ですよね。ゲームエンジニアが2人しかいなかったので,誰も脚なんか作りたくないし余力もないので,脚の細かいところは全部省略しておきました(笑)。

 あと,元々は山とか森とか素晴らしい景色を作りたかったんですが,デザインアーティストも2人しかいなかったので,木を描いている時間はなく,結果として砂漠になりました。

 あと,最初MMOにしたかったんですけど,バックエンドサーバーをつくるお金がなくて,今の一対一にしました。

 「Journey」を作るという作業は,常にお金と,どこまで出来るかのリソースリミットとの戦いだったんです。

上田文人とJenova Chenが語る,アートと制… – 4Gamer.net より引用

このようにして、フォトリアル表現へのアンチテーゼとして見られることもあるシンプルながらも美しいグラフィック表現は、小規模制作会社ののっぴきならない台所事情も合わさって実現したようです。

音楽・音響

この作品はグラフィック・ストーリーテリングだけでなく、音楽も高く評価されています。グラミー賞にノミネートされたことからもその評価の高さをうかがうことが出来ます。

音楽を担当したのはAustin Wintoryオースティン・ウィントリー)さん。重厚な、壮大な、軽快な、様々なオーケストラ演奏は一曲一曲が良くて、コントローラーを置いてしばらく聞いていたくなるほどです。

このゲームのサントラはiTunesなどでも購入することが出来ます。

(購入してみたところ、サントラってあまり改まって聞かないタイプだったんですが、ゲーム音楽って思っている以上にプレイ体験と紐付いていて、記憶と感情が呼び起こされてエモいです。ゲームとサントラで二度美味しい。)

操作キャラの座標とリンクする音楽

ゲームの中での音楽の使い方もただ場面に合わせて切り替えるだけでは無く工夫されています。

例えば、先ほども出てきた砂を滑り降りるシーン。ここでは操作キャラの進み具合に合わせて音楽が盛り上がっていきます。

キャラクターの位置座標に合わせて音を足していき高揚感を煽り、最後に道が途切れ主人公が空中へ投げ出されるクライマックスに音楽のピークを合わせる。

そして、音楽の余韻とともに次のステージの入り口にふわりと着地。

このように、質の高い音楽と進行度に合わせる変化が掛け合わさって、場面場面に合わせたプレイヤーの感情を増幅させるように働きかけるのです。

自分の操作によって音が変化していく実感は、聞く分には差が分かりづらいかもしれないですが素晴らしい体験でした。興奮を増幅される感じです。

(「ワンダと巨像」っぽい音の演出と言うと分かりやすいかも。ちなみに制作者のJenova Chenさんは、インタビューで「ICO」「ワンダと巨像」の上田文人さんを「僕の中でのゲーム界のトップアイドル」と表現しています。)

ちょっと妄想

脱線しますが、この「位置座標と音楽の変化の関係」はリアルでも出来そうですよね。

たとえばスマホのGPS機能を使って。自転車、登山、ドライブ、ランニング……これらのためのアプリやサイトには、ルートを作成・共有できるものがあります。

そういう機能を使ってルートの進行度に合わせて音楽やARなどの視覚情報に変化が出る、といったものがあったら面白そうだなぁ、なんて妄想したりして。

音楽だけじゃない音の要素

音楽の使い方に関して話しましたが、それだけで無くSE・音響も素晴らしいです。

癒される音

このゲームは、地形要素として”砂”がメインで出て来ますが、砂を歩く音・滝のように砂が流れる音・布生物たちの鳴き声などの音が世界観を補強するのと同時にリラクゼーションサウンドとしても働きます。

砂の音は海のさざ波のようで聞いていて気持ち良いんですよね。

それだけじゃ無く、主人公の能力を上げるパワーアップアイテムやステージ進行のためのギミックが音を発していて、プレイヤーへのヒントとしての役割もこなしています。

アーティスティックな作品ではありますが、デザイン面では親切で気が配られているからこそ、気持ち良くプレイできるのでしょうね。

迫力のある音

ステージの中には、人口物を思わせる機械、古代兵器、巨大な布生物、絶景を見せる地形要素など迫力あるオブジェクトも存在します。

それらの迫力を表現するのにも音を効果的に使っています。砂で出来た滝も近くに行くと激しい音で迫力を伝えます。

また、コントローラーの振動と迫力ある音がリンクしているのも臨場感を演出しています。

ちょっと雑談

迫力といえば、このゲームには何度か巨大なオブジェクトとその巨大さに圧倒される場面演出が出てきます。クジラのような巨大布生物、古代兵器的機械、頂上へ昇っていく時のステージ……個人的にこういう演出好きなんです。

例えば映像作品でも、巨大構造物が音を立てながらゆっくりと倒壊してきて「OMG……go……gogogo!」みたいなシーンとか、2014ゴジラで巨大怪獣ムートーの近くの線路で息を潜める場面とか、goproのPVでザブンっと海中に潜り、差し込む光に浮かび上がるクジラの姿が見えるシーンとか……

そして!このようなシーンには効果的な音響もついています。 コン……ココン……ゴンゴンゴンッ!!と徐々にひっ迫感が出てくる倒壊音とか、低音とともにドップラー効果的な怪獣の鳴き声がサラウンドで聞こえたり、海中のディープなエフェクトのなかクジラの歌の高音が響いたり……

高所恐怖症の巨大オブジェクト版みたいな…肌感覚を刺激してくれるゾクゾク感が堪りません。

没入感の高いメディアであるゲームと相性の良い演出法でもありますよね。 このような演出には何か専門的な呼称があるのでしょうか。調べたり話したりしたくても出来ないもどかしさを抱えています……

閑話休題。

ストーリーテリング・演出

このゲームでは明確なストーリーを言葉で語る事はありません。ゲームの中での抽象的な壁画や、景色、構造物などからプレイヤーが読み取るという形で物語が綴られます。

見立てる想像力の余白

旅の途中では、布で出来た生き物?たちに出会います。

これらは、どこか実在の動物のふるまいを思い起こさせます。イルカやクジラ、クラゲ、海藻……それぞれのプレイヤーによって見立ては様々かもしれません。

例えば、砂の傾斜をスキーのように滑り降りるシーンでは、主人公と並走する”布イルカ”と何か心を通わせることができたような気分になります。このシーンは、イルカと泳ぐダイバー、あるいは鳥の群れと飛ぶグライダー、そんな場面が連想されます。

あえて抽象度を上げることで、独特の世界観を構成しつつ、記憶の中の何かを見立てて想像することができる余白が用意されています。

これらは、生き物だけでなく地形ストーリーテリングにも当てはまります。

ゲームの描写とそれを何かに見立て記憶を投影するプレイヤー。

それによって、プレイヤーはゲーム体験をより固有の体験として楽しむことが出来るのです。

(とはいえゲーム進行やどんなシーンなのかが分かりづらくなるわけでは無いのがこのゲームのすごいところなのかも)

(あと、イルカのような布生物(布イルカと呼ぶことにします)が、プレイヤーのアクションボタンと同じエフェクトでコミュニケーションを図ってくるのがまた良いんですよね。なにか意志を持った者なんだということが分かるし、”布イルカ”同士でエフェクトを出し合っているのを見ると何かを話しているんだなと思えてほっこり。)

ジョセフ・キャンベル、三幕構成

製作者であるJenova chen氏は作品の物語構造について、「ジョセフ・キャンベル」「三幕構成」という言葉で説明しています。

「私の大学の専門は映画だったので、物語の描き方を勉強してきました。『Flowery』、『風ノ旅ビト』、『Sky』はどれも三幕構成というハリウッド的なストーリーテリングを活用して、エモーショナルな物語を紡いでいます。この三幕構成は私のゲームの中での共通点だと思っています」とチェン氏は話した。

「『風ノ旅ビト』ではジョゼフ・キャンベルの『英雄の旅』を物語の構成に用いて、さらに孔子の『論語』の為政篇も比喩的に扱っています。『Sky』も基本的に同じで、構成に関してはあまり変えていないです。人間は、人生を紡いだ物語に癒やされやすいと思うんですよ」

『風ノ旅ビト』が映画だとすれば『Sky』はテーマパー…-IGN Japan より引用

ジョセフ・キャンベルは『神話の力』『千の顔を持つ英雄』で知られる神話学者。ジョージルーカスが映画『スターウォーズ』を作るときに参考にしたことでも有名です。

その内容は、各地にある英雄譚から共通した物語構造を見出すというもので、同じ構造をもった英雄の話が各地で別の英雄として語られている、つまり、”千の顔を持つ英雄”というわけです。

その「英雄の旅」は、旅立ち→試練→帰還という構造を持つといいます。

桃太郎もルーク・スカイウォーカーもアシタカも共通した構造を持った英雄として見いだすことが出来るんですね。

三幕構成というのは、シド・フィールドというハリウッドの脚本家・プロディーサーが枠組みを作った脚本構成のことです。

一般に、映画は「設定」「対立」「解決」の役割を持つ3つの幕 (act) に分けられる。ストーリーの始まりが「設定」であり、中間が「対立」、終わりが「解決」である。第一幕 (設定) では、誰が、何をするストーリーであるのかが設定され、主人公の目的が示される。第二幕 (対立、衝突) では、主人公が自らの目的を達成するために、その障害と対立、衝突する。第二幕の後半には、主人公が敗北の寸前まで追いつめられる。そして、第三幕 (解決) では、ストーリーの問い、すなわち「主人公は目的を達成できるのか?」という問いに対する答えが明かされ、その問題が解決される。

三幕構成 – Wikipedia より引用

どちらも、物語の原型や脚本構成の話で、このように話の枠組みがしっかりとしているからこそ言葉が無くても伝わる物語になっているんですね。

オンライン要素

オンラインプレイでは、シームレスに他の誰かと旅をすることになります。知りプレイしていると、いつのまにか人がいる…といった感じでアナウンスがあるわけでも無いし、最後までチャットなどの具体的な意思疎通の方法もありません。また、知り合いと一緒にマッチングすることもできません。

コミュニケーションは自キャラの操作とアクションボタンでポワンと音を発するのみ。普通のオンラインシステムと比べると、静かで淡いオンラインと言えます。

しかし、それだけなのになんとなく何が言いたいのか分かるような通じ合える瞬間があります。(もちろん、それは私が勝手に意味を見出しているだけかもしれませんが…)

原初的な、でも根源的なコミュニケーションがそこにはあって、このゲームでの旅を一期一会なプレイ体験として深めてくれて、意味を見出せる余地を提供してくれます。

相手のふるまいの意味があくまで自分の解釈次第に収まっているのは、要素を削ったシンプルなオンラインシステムだからこそだと思います。

「内向的な人間でも楽しめるソーシャルな体験とはどんなものなのか考えた結果、『風ノ旅ビト』というゲームができました」(中略)

「『風ノ旅ビト』で出会ったプレイヤーとフレンドになりたいというプレイヤーも結構いました。でも、フレンドになってしまえばその人が本当はどういう人間なのかということがわかってしまって、魔法が解けるようなことが起きるんです。

『風ノ旅ビト』が映画だとすれば『Sky』はテーマパー…-IGN Japan より引用

魔法が解けないようにデザインされているから、意志が通じ合ったと感じて嬉しい瞬間があり、全てを分かり合えない寂しさがあるのでしょう。

それはゲームでの物語体験の一部ということから逸脱せずに、体験の揺らぎを生み出してくれます。

1周目はNPCと思ってた。2周目の相棒は…

私は実際の初見プレイでは、1周目は相手がプレイヤーだと気づきませんでした。何か案内役のNPCだと思っていたのです。

そして、ゲームをやり遂げて流れてきたエンドロールに一緒に遊んだプレイヤーの項目とIDが!驚きと感動とED曲の良さとが合わさって思わず涙ぐみました。

そして、2周目。2周目は1周目のプレイヤーと違って積極的にコミュニケーションを図る方でポンポコとアクションボタンで話しかけてきます。

なにやら「ついてこい」と言っているようで行ってみると、なんとステージのポリゴンをすり抜けて世界の裏側に(多分バグでポリゴンの境目から行けるはずのない場所に行ける)。

そんな”世界の裏側”への入り口は何箇所かあってそれらを一つ一つ案内してくれたのです。

ポコポコ鳴らし合いながら賑やかな旅でした。

要素の絞られた淡いオンラインシステムですが、パートナーによって旅の体験は、ずいぶんと違った雰囲気になるのがとても面白いです。

何周目か分かるマント

実は、自キャラが着ているマントの模様は周回ごとに増えるようになっています。なのでクリア済みのプレイヤーからは、初見プレイなのか周回プレイなのかが分かるのです。

Where can I find the design of the Journey scarf? – thatgamecompany より引用

おそらく、私の1周目のパートナーは初見プレイを察して物語の中の役割を演じてくれて、2周目のパートナーは周回プレイだから色々教えてあげようという風に考えてくれていたのかも。

最後の最後で実は出来ること

ちなみにゲームの一番最後の方の部分。雪が積もったエリアにたどり着くのですが、ここでは足跡が残ります。

つまり、ここでは足跡の軌跡で描く絵でコミュニケーションを図れるのです!

このゲームは、要素を削ぎ落としたシンプルさが生む絶妙なバランスのコミュニケーションのみで成り立っています。しかし、最後の最後のここだけは、”“というゲームコンセプトからは少し逸脱した方法でコミュニケーションを試みることが出来るのです。

私は旅の道連れと、ハートを描きあったり、どうにかスマイルマークを作れないか苦心したり、ひとしきり絵によるコミュニケーションを楽しみました。

——あゝ、コミュニケーションってなんて素晴らしいのだろふ——

なんて、普段は思わないことを思ったのもこの旅の思い出の一つです。

必ずしも制作側が意図したものでは無いかもしれませんが、印象深かったです。制限された抽象的なコミュニケーションを楽しんでからの…という所が、より感動的だったのかもしれません。

オンラインシステムが出来るまで

このようなシンプルで奥深いオンラインシステムを作るのは簡単ではなかったようです。

プレイヤー同士が攻撃しあわないように回復アイテムなど奪い合いに繋がる要素を調整したり、キャラの見た目をシンプルにすることでプレイヤーの「出来ること/出来ないこと」への期待をコントロールしたり…

ふたりで協力して岩を上り、助け合うことで感情を深めるという目的でテストプレイを行ったところ、なんと相方に殺されてしまい、ジェノヴァ氏は人間というものにガッカリしたという。

 ジェノヴァ氏は、こうしたオンラインプレイでのプレイヤー間の衝突がなぜ起こるのか、心理学者に会って相談してみたという。すると、新しい世界に降り立ったプレイヤーは、赤ん坊のような状態と言われたとのこと。赤ん坊は、ひたすらフィードバックだけを求める。つまり、未知なる世界での“叫び”や“血”、“死”といったものが、リワード(報酬)に見えてしまうわけだ。ここから、ユーザーのインプットとアウトプットをコントロールすればいいのではと気づき、“お互いに報酬を与え合う”というフィードバックを導入。相手のことが好きになる仕掛けができたそうだ。

『風ノ旅ビト』誕生秘話――人の感情を動かすゲームが… – ファミ通.com より引用

『風ノ旅ビト』ではキャラクターに手がないので、殴ることや相手を崖から突き落とすようなことができないし、盗むよりも自然と譲り合うゲームシステムを作っています

『風ノ旅ビト』が映画だとすれば『Sky』はテーマパー…-IGN Japan より引用

シンプルなオンラインシステムを、自然に「そういうものなんだ」とユーザーに思わせるためにはUI/UXデザインによって認識をコントロールする必要があるんですね。

意外?ソウルシリーズにインスパイア

風ノ旅ビトの制作者によると、このゲームはデモンズソウルなどのソウルシリーズにもインスパイアされているという話。

意外なタイトルですが、言われてみれば、次のステージに移行するとき”布イルカ”に連れられて行くところはソウルシリーズにおなじみの演出を彷彿とさせるし、初見ではNPCなのかプレイヤーなのか分からなかったり、メッセージを残すという淡いオンライン要素も似ているところがあるかもしれません。

インタビュー記事を見る限りでは、主にオンライン要素に関して影響を受けているようです。

Robin Hunicke氏によると、“ダークソウル”と“デモンズソウル”、そして“Minecraft”はthatgamecompanyのオフィスでしばしば話題に上るタイトルで、氏はこの3タイトルにインスパイアされていることをはっきりと明言。この3タイトルが内包する非同期にも関わらず再帰性を持つゲーム設計は今後ゲームデザイナーが開拓すべき有益な分野だと語り、実際にいくつかの興味深いデザインが存在していると示唆しました。

thatgamecompanyの神秘的な新作「Journey」は“ダークソウ… – doope! より引用

好きなゲームは『ダークソウル』シリーズですね。表面上は似ても似つかないかもしれないですが、じつは我々の作品と似ているところがあるんですよ。世界に圧倒される感覚や、途中参加/退出が可能なプレイヤーどうしの交流のシステムなどは、共通していると思います。

『風ノ旅ビト』や『Sky』で知られる“thatgamecompany…- ファミ通.com より引用

過剰につながりすぎない、静かなオンラインシステムという共通点があるのかもしれません。

このゲームの影響力

“小さな制作会社”がもたらす”大きな影響”

オンライン専売タイトルで配信されてからジワジワと口コミが広がっていき、数多くの賞を受賞するに至ったこの作品。多くの人々にプレイされ、制作者たちにもその影響をもたらしました。

alto’s adventuregrisなど有名なタイトルの制作者たちが、風ノ旅ビトの影響を受けたことに言及しています。

風ノ旅ビト以前以後では、風ノ旅ビトライクなゲームの数もかなり増えている印象があります。もしかしたら任天堂の名作ゲーム「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」にも影響を与えているかも?

また小規模制作会社にも関わらず、ここまで素晴らしい作品をつくりあげたこと(小規模制作会社だからこそ、とも言えるかも)は、他の個人や小規模制作者たちの大きな希望にもなったと思います。

インディゲームが注目されるきっかけの一つにもなったでしょうね。

ちょっと雑談

少々飛躍した話になりますが、この作品のような小規模制作のブレイクというのは他ジャンルにも見られます。

音楽では、chillwavevaporwavefuturefankfuturebassなど個人・小規模制作者がsoundcloudなど誰でもupできるサイトを通してきっかけとなったムーブメントがありました。hi-fiでリッチな音楽とは別の流れがあって、これらに何となくおぼろげな共通点を見出したりしなかったり……。

また日本におけるアニメーション作品では、2017年に小規模制作会社による作品「けものフレンズ」がネットを中心にムーブメントを起こしました。 小規模制作会社、練られた世界観、ロードムービー、ローポリ、小規模だからこそ濃縮されたメッセージ性……なんとなく評価するときの心情みたいなものがダブるようなダブらないような……。

もしかするとゲームの世界だけでなく、本流とは別の表現を求めるブームみたいなものがあるのかもしれませんね。

風ノ旅ビトは人生

風ノ旅ビトは、数ある物語に通底する原型を用いながら人生のような壮大な物語を言葉ではない形で描きだします。

言葉がないことで出来た読み取り方の余白には、ユーザーそれぞれの想いや記憶が投影され、プレイ体験はユーザー固有の体験となります。

インタビュー記事では揺らぎのある体験を生むマルチプレイ要素の導入の理由について、

一言で言えば「人生の体験」です。それをビデオゲームを通してできればと考えていました。人生では、他人と出会ったり、幼なじみがいたり、別れがあったり、また時間が経ってから、昔の仲間と出会ったりします。それを再現してみたかったのです。

ふつう人は一人で生まれて、一人で去っていきます。人生は一本道でありながら、揺らぎがあります。その揺らぎのなかに、マルチプレイという要素を入れることによって、人との友情や、関わりを表現していきました。

ビデオゲームを通し、いかに真の友情を育めるか?『Sky』… | Game*Spark より引用

と答えています。言葉では語られない物語と他プレイヤーとのマルチプレイ要素によって、3時間ほどのゲームプレイのなかに人生を投影するような物語を落とし込んでいます。

以下にインタビュー記事から、このゲームがどういった感覚でプレイされたかの反響を説明している部分をいくつか引用します。

 本物のアートというものは,もがき苦しんでいるアーティストから生まれてくるんじゃないかと僕個人は思っています。(中略)最後に開発が終わるとき,自分で自分のゲームをしながら泣いたんです。初めて自分のゲームで泣きました。キャラクターが山を登っているときの苦しみと,自分のゲーム制作における苦しみがシンクロしちゃいまして,すごく感情の揺らぎを感じました。

上田文人とJenova Chenが語る,アートと制… – 4Gamer.net より引用

上のは製作者のJenova Chenさんの話です。制作はずいぶん苦労したらしく、キャラクターの苦しみに自分の苦しみを投影して感極まってしまったようです。開発過程で飽きるほど見ているはずの製作者にさえ感情の揺さぶりを感じさせるとは。

『風ノ旅ビト』の旅は、人生そのものに置き換えることもでき、実際にそういう感覚でプレイしたユーザーが多いらしい。

「『風ノ旅ビト』をプレイして、途中で冒険に加わったプレイヤーを死んだ家族と重ねて旅していた、という感想も多かったですね。ユーザーはゲームで死者と再会したような気持ちになり、愛する人を成仏させたような感覚でプレイしていたそうで……私自身は、ゲームが人の哀しみを癒やすこともあるということを考えもしいませんでしたけど」とチェン氏は『風ノ旅ビト』の反響を振り返った。

『風ノ旅ビト』が映画だとすれば『Sky』はテーマパー…-IGN Japan より引用

個人的に、こういう解釈は思いつきもしなかったので驚きました。このゲームの物語の影響もあるでしょうが、もしかしたらゲームのオンラインシステムに馴染みがない人は意志をもった自分以外のキャラクターにそういうものを投影することもあるのでしょうか。

 最後の調整に1年を費やして完成させた本作だが、発売後に896通のメールをもらったという。そのなかには、とても個人的なストーリーも含まれていたそうだ。その内容が、講演のラストに特別に紹介された。

 それは15歳の少女からのもので、父が病の宣告を受け、そして亡くなるまで『風ノ旅ビト』をいっしょにプレイし、それが父との最高の思い出となっているということ、そしてこの作品が自分の人生を変えた、という内容だった。父が亡くなった後、しばらく経ってからまた『風ノ旅ビト』を遊ぶようになり、いまもいっしょに父と楽しんだことを思い出しているという。

 ジェノヴァ氏は、このゲームは人生を描くゲームなのだと思ったという。「人生は短いが、人の生活をよりよいものにする助けはできると思った。だからゲームを作ることは大好きだ」と語り講演を締めくくった。その後、会場はスタンディングオベーションとなり、拍手が鳴りやまなかった。

『風ノ旅ビト』誕生秘話――人の感情を動かすゲームが… – ファミ通.com より引用

もう一つ、父親を亡くした少女の話

 もう一つちょっと話をさせてください。人生の体験によって,ゲームが大きく変わるということについてです。(中略)

 「Journey」を遊んでいた,とある女の子のプレイヤーが,お父さんを亡くしました。そのとき彼女は,まだゲームのストーリーを完全には理解していませんでした。お父さんを亡くしてしばらくしてから,2回目のプレイをしたときに,ようやくゲームの真意が分かりました。自分のお父さんが,どこか美しい彼方へ旅立ったことを,ゲームを通して考えられるようになりました。

……これは,僕が「Journey」で表現したいものに,とても近かったんです。でも最初に「Journey」を遊んだ13歳の少女にとっては,死やロス,輪廻転生という問題は,さすがに難しすぎたんです。

いつか「ゲーマー」という言葉がなくなってほしい――「風ノ… – 4Gamer.net より引用

ゲームとしては短い2-3時間のプレイですが、このように人それぞれの想いを呼び起こす濃い体験を作ってくれるゲームです。

風ノ旅ビトゲームプレイという方法を通して、自分の記憶や感性と向き合う時間を作ってくれるのかもしれません。

長々と書きすぎたので、この辺りでやめておこうと思います。

ゲーム『風ノ旅ビト』はPC版(EPIC GAMES STORE)、iOS版PS4版PS3版で配信されています。iOS版は610円(2020.01現在)ですし、ご興味ある方にはぜひおすすめのゲームです。

Let’s Play!

『風ノ旅ビト』Journey

『風ノ旅ビト』Journey

Annapurna Interactive¥610posted withアプリーチ

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